あこがれの翻訳家、通訳ガイド。あなたの夢をかなえるための教材、参考書をご案内します。
たとえば、"If you know what I mean/ I don't ever wanna hear that song again."(ポップ曲「Please Mister, Please」)のif節はどう訳したらいいのか。CDの解説書はここを「私の気持ちをわかってちょうだい」と訳しているけれど、正しくは「あのね、はっきり言っておくけど、だってねえ」なんだそうだ。どうやら翻訳者が陥る誤訳のワナは、難しい言葉にではなく、こんな日常的な言い回しに潜んでいるらしい。 著者は『遠い声 遠い部屋』(トルーマン・カポーティ)、『南回帰線』(ヘンリー・ミラー)、『嵐が丘』(エミリー・ブロンテ)など名著の翻訳を数多く手がけてきた東京外国語大学名誉教授。英語と日本語の隅々まで行き届いたその目配りに、まず、心地よいショックを覚える。「辞典」と銘打ってはいるが、いたるところで目からウロコの落ちる楽しい読み物なのだ。 名訳とされている『嵐が丘』の中で、「小説家でもあったさる著名な英文学者」が"He murmured aloud"を「彼は大声でつぶやいた」と訳している、という指摘は痛快だ。大家(もしかしたら阿部知二?)が、「aloud」に「ひとりごとを言う」という意味もあることを知らなかったなんて。思わず手を打って、喜んでしまう。 「辞典」の「ancient」の項では、こんなエピソードが紹介されている。映画『黄昏(たそがれ)』で主人公に扮したヘンリー・フォンダが、"I'm ancient"とつぶやく場面がある。「ancient」はアメリカの口語で 「very, very old」という意味の言葉だが、評論家の「故H氏」が「この科白にはまいったな、彼は自分はもう<人間>じゃない、<古代生物>だと言っているんですよ」と、新聞や雑誌で絶賛していたという。 実はこの本は、こんなよこしまな読み方をしてはいけないのである。著者が「まえがき」で断っているように「本書は誤訳指摘を目的として書いたものではない」。英語を勉強したことのあるものなら誰でも知っている 「a」「about」「and」から「you see/you know」までの、意外に知られていない用法を豊富な具体例から教えてくれる。しかし、決して固苦しい語学参考書ではない。あくまでも楽しい読み物なのである。(伊藤延司)
この本はお薦めである。
単なる読み物としても、じっくり取り組むお勉強としても
言うまでもないことでしょうが、英語にも「(ネイティブでない人間には)意外な意味を持つ簡単な単語・フレーズ」というものが数多く存在します。そういうものを字面の易しさにだまされてついつい適当に訳し飛ばしていると誤訳になってしまいます。本書はその種の誤訳の具体例を単語ごとに集めてエッセイ風の解説を付したものです。
…と、タイトルに書いたとおり、アルファベット順にページをめくっていってもまったく違和感なく読める"辞書"です。(私は辞書として使うことはないと思いますが。)
常に学習者の視点、読者の視点から英語教育に、そして英語翻訳に関わり続けてきた著者の会心作。順に読み進めていけば、著者が自分の力量をひけらかすわけでも、力の劣るものを酷評するでもなく、「ここは素通りしやすいところだけれど、何も気にならなかったかな?」と至る所で、呼び止める声が聞こえてくる気がする。達人、名人、鉄人、職人という言葉では表しきれない暖かい著者の人柄がにじみ出てくる好著といえる。英語学習者にとっては、ペーパーバックなど自分の好みのジャンル以外の文章を読む力を測る上でもいい教材となるだろう。入試問題とばかり格闘しがちな中学高校の英語教師にも一読を勧めたい。 |
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このページの情報は 2006年4月16日22時3分 時点のものです。 |




